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今改めて…Next Position Please
Next Position Please(1983)
  チープ・トリックがそのキャリアにおいて最も不遇の時代(1983年)にリリースされた「Next Position Please」(以下NPP)  トッド・ラングレンがプロデュースしたこのアルバムは、その完成度の高さに応じた評価を受けているとは言い難く、当時のセールスもふるいませんでしたが、ファンの間ではマニアックな人気を誇る、隠れた名盤といえるアルバムです。メンバー自身もお気に入りのようで、今年(2010)年のツアーでも"I Can't Take It"  "Borderline"の2曲がセット・リストに入っていましたね。アルバムの発売から27年を経過した今、改めてその魅力を探りたいと思います。今回、前回(6年前)の"Album Talk"にもご協力頂いたユタカさん(Movin' Jelly)に再び語って頂きました!
管理人:
ユタカさんがこのアルバムが好きなことは良く存じているのですが(笑) はじめて聴いた時はどのような印象を持たれましたでしょうか? 最初からガツン ときましたか? それとも繰り返し聴くうちに段々良さを実感してきました?

ユタカ:
まず針(レコードでしたから)を落とした瞬間の"I Can't Take It" 曲もサウンドも最高だから引き込まれましたね。当時、僕はチープ・トリックのアルバムを聴く順番がメチャメチャで、最初が「All Shook Up」、その次が当時最新作だった「NPP」だったんですよ。

管理人:
"I Can't Take It"はプロモーション・ビデオも作られていますが、当時ユタカさんご覧になっていますよね?


ユタカ:
"I Can't Take It"のPVは当時テレビ番組「ミュージック・トマト」(テレビ神奈川)でよく流れていたのですが、それは酷いクオリティで(苦笑)。ただ、当時ミュージック・ビデオって、皆あんなものでしたよね!"曲のイメージが却って悪くなるよ!"っていう(笑)。

実際、アルバムを聴くまではイメージ悪かったですし、 かつては"女のように美しい"とか呼ばれたロビンも83年くらいになると、デヴィッド・シルヴィアンやパナッシュ、Duran Duran、ABC、Culture Club等の"第2次ブリティッシュ・インベンジョン"のおかげで、普通のロックミュージシャンに見えたし…。

管理人:
飾り気なしのロックンロールを貫いていたCTにとっては難しい時代でしたね…。

1. 見つめていたい  Every Breath You Take / ザ・ポリス (The Police)
2. ビリー・ジーン  Billie Jean / マイケル・ジャクソン (Michael Jackson)
3. フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング / アイリーン・キャラ (Irene Cara)
4. ダウン・アンダー  Down Under / メン・アット・ワーク (Men At Work)
5. 今夜はビート・イット  Beat It / マイケル・ジャクソン (Michael Jackson)
6. 愛の翳り  Total Eclipse Of The Heart / ボニー・タイラー (Bonnie Tyler)
7. マンイーター  Maneater / ホール & オーツ (Daryl Hall & John Oates)
8. あまねく愛で  Baby Come To Me / パティ・オースチン、ジェームス・イングラム
9. マニアック  Maniac / マイケル・センベロ (Michael Sembello)
10. スウィート・ドリームス  Sweet Dreams / ユーリズミックス (Eurythmics)


今調べてきましたが以上が「NPP」がリリースされた1983年のビルボード年間トップ10シングルです。どうみてもCTの入る余地はなさそうですね(笑) トッド・ラングレンも、CT もある程度は時流の音にスタイルを合わせられる人たちですが(ただ、今改めて当時の流行に合わせたと言われていたらしいUtopia の"Love In Action"聴き返してみたら、トッド印の何物でもなかったですが)「NPP」作成時には両者の間で「やりたい音楽をやる」同意があったみたいですね。何のインタビューで読んだのだったかな… キーワードは当然"王道のハード・ロック"だったと思いますが、当然レーベルが納得する訳はなく(苦笑)あのリックもこき下ろしたMotorsの"Dancing The Night Away"を無理やり押しつけてきたわけですね。あの曲はトッドも好きじゃないだろうな(笑) "Dancing The Night Away"が収録された、あの名曲"Twisted Heart"(「Sex, America Cheap Trick」収録)が外れたなんて、今考えると信じられないですが、結局エピックにはCTの本質を最後まで理解できなかったのでしょうね


ユタカ:
そう、とにかく80年代はチープ・トリックにとって苦難の時代だった!最高のロックバンドだというのに、当時僕らのような洋学かじり始めの高校生には「普通のロックバンド」に見えちゃってたんですよ!ロビンにキャーキャー言ってた女子ファンも、ジョン・テイラーとかに浮気してたんじゃねえのか!??  おっと脱線してしまいました(笑)。

「NPP」はそれはもうカセットテープで何度も何度も聴きましたよ。さすがに"最先端の感じではないな"と思っていましたが…ただそれでも好きでしたね。あの"第2次ブリティッシュ・インベンジョン"で出てきたバンドのアルバムが、今も新鮮味を失わずにいるかと言えば、甚だ疑問です。ノスタルジーだけですね。

管理人:
そういえば、確か「NPP」はカセットとLPでは収録曲数が異なりましたよね? カセットは今のCDと同じ14曲で、LPは"You Talk Too Much"と"Don't Make Our Love A Crime"をカットした12曲だったかな?

ユタカ:
そうです。当時輸入版レコードのスリーブに"カセットのみ"という注釈付きで、それら2曲がクレジットされていて、すごい聴きたいのに!という悔しい思いでしたが、CDが出て救われました(笑)。


管理人:
プロデュースを担当した、CTと気のしれたそのトッド・ラングレンですが、トッドというアーティストに対してはユタカさんどのような評価をされていますか? トッドがプロデュースした他のバンドのアルバムを聴くとわかりますが、トッドのソロやUtopiaと非常に音が似通っていて、トッドがかなり自分の色を持ちこむタイプのプロデューサーであることがわかります。「NPP」もかなりトッド色の強いアルバムと思うのですが。

ユタカ:
Utopiaを聴くと分かるんですが、CTというバンドはトッドにとって非常に"料理しやすい"バンドだったのではないかと推測します。まずリックの書く楽曲。長年の友人だったトッドはきっと「お前、相変わらずいい曲書くよなあ〜!!俺の大好物だよ!」と言ったに違いありません(笑)。そのぐらいトッドの感性にピッタリ合うものだということです。

さらにロビンのヴォーカル。Utopiaのカシム・サルトンの声も素敵なハイトーン・ヴォイスですが、ロビンの"レインボー・ヴォイス"も素材としては、もう言うことなし。「よし!俺のプロデュースで最高のサウンドにしてやるよ!」とトッドが言ったかどうかは分かりませんが。きっと意欲的に取り組んだのだと思います。

管理人:
ひとつ前のアルバム「One On One」(1982)も決して"シンプル"といえるサウンドではなかったですが、「NPP」はトッドの嗜好もありより凝ったサウンドになっています。"オーバー・プロデュース"という感想は持ちませんでしたか?


ユタカ:
どういう状況を"オーバー・プロデュース"と言うのか…それは"ライヴではとても再現できない"アルバムを作ってしまった時なのかも知れません。それは何層にも美しく構築されたギター・サウンド、コーラスといったあたりだと思うんですが、ただリックはそれを「良し」としたんでしょうし、アルバムはアルバム、ライヴはライヴ、という風に割り切っていたんでしょうね。インタビューでもリックは「トムに代わるセカンド・オピニオンが必要だった」といったことを語っていましたし。

管理人:
ここ数日、Utopiaの80年代のアルバムと、トッドが80年代にプロデュースしたハード・ロック・バンドのアルバム…あまり知られていませんがNew Englandの「Walking Wild」(1981)、Touchの未発表に終わった2ndアルバムをi-podで聴いていたのですが、ユタカさん仰る"トッドにとって非常に「料理しやすい」バンド"をなるほど!と思いました。改めて聴いてみたらNew EnglandとTouch、さほどサウンドはトッドぽくもUtopiaぽくもなかったんですよ。「NPP」の方が断然トッド(Utopia)色が濃いです。Utopiaも、プログレだったり、バンキッシュ〜New Wave色を強めたり曲調は多彩ですが、ストレートなロックした曲の方法論はきっとそのままCTのアルバムに持ちこめたのでしょうね。で、 「Adventures In Utopia」や「Utopia」を聴いていて思ったのはトッドとCheap Trickは核となるルーツにBeatlesを共通項として持っているのが大きかったのではないかと。New EnglandとTouchのメンバーもBeatlesは聴いていたでしょうけれど、自分たちの音楽に色濃く反映されるほど影響されていないのですよね。 また未練がましく書いちゃいますがこのBeatles色という点でも"Twisted Heart"を収録すればより多面的にルーツの部分を表現できた筈…って、おっと、愚痴ばかりじゃいけません(笑)

ユタカ:
そうですね。やっぱりBeatlesがお互いの根底にあると、話は早い!Utopiaも勢い余って「Deface The Music」という大Beatlesパロディ作を作っちゃってますし、バンドにとってトッドの音作りというのは非常に興味深いものだったんでしょうね。

この「NPP」とトッド・ラングレンの一連のプロデュース作品で雰囲気の近いものを選ぶとすると、1982年のユートピアのアルバム「Utopia」、あと1989年のThe Pursuit Of Happinessの「Love Junk」あたりかな?他にも沢山あるので、きっと人によっては「いや違う、このアルバムだ!」と言うのかも知れないけど。

管理人:
「One On One」の、暴力的に鳴り響くリックのギターと、それに同調するような、歌とシャウトを行き来するアグレッシヴなロビンのヴォーカルをフィーチュアしていた「One On One」と比較すると、「NPP」は楽曲志向の姿勢が出ていると思います。これもプロデューサーのトッドの力が大きいと思うのですが、メンバーの誰が曲の中でガッと前に出るでなく、全員が均等に力を発揮(流石にジョン・ブラントはあまり目立ちませんが)。各々の楽曲のベストのかたちを引き出すための最適のアレンジがなされていますね。「One On One」ではリックがひとり頑張り過ぎていて云々〜というインタビュー記事を昔読んだ覚えがありますが、もういちどバンドとして協力して頑張ろうという意思が反映されているのも感じます。ロビンが書いて1stシングルになった"I Can't Take It"がオープニングに収録されているのも象徴的ですよね。

前回の"Album Talk"の時マンタロウさんが「ポップに聞こえるけど、良〜く聞くとスゴくライブにRockしてる」と仰ったのと、それに対するユタカさんの「リズム隊をベースにレコーディングされている事が、マンさんの言うライブ感となって聴こえてくる要因ではないかと思う」というコメントが印象的だったので すが、この「NPP」が持つライヴ感について改めて。

ユタカ:
僕が思うに、トッド・ラングレンのレコーディングのやり方というのは、非常にオーソドックスで、ドラム、ベースのリズム隊はしっかりビートを感じればオッケー。ヴォーカルやコーラス、ギターの音には、ユニークなエフェクトをかけたりして、徹底的に凝りまくる。

ただ、ドラムとベースをいい感じに録り、いい感じにエフェクトをかけてドライヴさせる、というのが実は非常に職人技を必要とするものなのかもしれません。前作のロイ・トーマス・ベイカーの"ゲート・エコーかけまくり"のドラム(これはこれで好きなんですが)とは打って変わって、非常に自然なドラムの音に聴こえます。

このトッドというお方は、ドラムの録り方が非常に上手い!このあたりご本人も自信持ってるでしょうから、どの作品も似た感じになるのはやむなし。むしろ、そのままでいい!ということでしょう。

管理人:
私もずっとユタカさん仰るように「ドラム、ベースのリズム隊はしっかりビートを感じればオッケー」的な思いをずっと持っていたのですが、昨日大音量でヘッドフォンで聴いていたら、以外にドラムスのアレンジは細かい気がしました。こんな細かいニュアンスも出していたのか、という。

"Invaders Of The Heart"は、オフィシャルのCTのスタジオ録音曲の中で唯一といってよいバーニーのドラムソロがフィーチュアされた曲ですね。この曲でのバーニーのスネアの音の心地よいこと! もしかしたらこのアイディアはトッドによるものかもしれませんね。確かにトッドのプロデュースでなければここまで良い音にならなかったのではないかと、そんな気がしますね。

改めてアルバムをじっくり聴いてみて、その曲調の多彩さにも驚かされました。個性的な曲の集合体で、本当に似た曲がないですね。その曲の多彩さに伴って、 リックのギターが…いや卵が先か〜ではないですが、ギターが先かもしれませんが非常に幅広いプレイをみせてくれています。私は、昔はトッドはリッ クのギターの持ち味であるアグレッシヴでラウドな面を抑えて、失礼ながらCTの本質を引き出せなかった戦犯と考えていたこともあったのですが、歴代のCTのプロデューサーの中で最もリックの引き出しをたくさん開けた(?)という点で功労者ではないかと今では思っています。シンコペーションして、ちょっぴりニューウェーヴ風曲調の"You Say Jump"なんてここでしか聴けないです

ユタカ:
そうそう、ギターに関しては、実に色んな音色のギターが層を成していて。このあたりは間違いなく、トッドの意図的なものだと推測します。

ご指摘のとおり、「One On One」とは打って変わって、リックはオーバードライヴを敢えて避け、色んな音色を出していますね。"Borderline"なんかはホントに綺麗ですね。キラキラしたギター・サウンドはもう完全にトッドのソロ作品の"Love Of The Common Man"とか、あの辺りのサウンドですよね〜。ひょっとしてトッドが弾いてるんじゃ?と勘ぐってしまうほどです。

クレジットがないのでアレなんですが、トッドは結構コーラスとかにも参加しているように思います。"3-D"の"Look At Me!"の声、これトッドじゃないかなあ?  あと"Heaven's Falling"にも隠れていそう…。

管理人:
「One One One」でのオーバードライブで歪ませて、ライヴ感とパワフルさを強調しつつ、しかし同時に適度に洗練されていて立体感もあるというロイ・トーマス・ベイカーとイアン・テイラーの音作りは素晴らしかったと思いますし、メンバーも気にいっていた筈ですが、それだけにこの大人しいギター・サウンドは最 初あれっ?と思いましたね。勿論、ギター・ソロやリフでライヴで聴けるあのリック印のギター・サウンドは聴けるんですけれど、それは決して決して他のアルバムのように曲の"核"になっていないですものね。しかし、聴き方が浅かったなあ…。こんなに表情豊かなサウンドだったとは。あとは、やはりバンドのトッドへの信頼感でしょうね。このアルバムのサウンドについて、メンバーが他のアルバムみたいに(笑)ぶ〜ぶ〜文句言っていたの見たことないですものね。

あと、ユタカさん仰るようにトッドは"Heaven's Falling" "3-D"等でギター、ヴォーカルで参加していそうですよね
End

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