Cheap Trick live in Japan 2016
Classic Rock Award 2016 at Ryogoku Kokugikan 11/11
live at Studio Coast,Shinkiba 11/16
Studio Coast
 Cheap Trickは自身の音楽スタイルに、そして活動に確固たる信念を持っているバンドで、それはバンド結成以来揺るぎない。可能な限りツアーを続け、合間にアルバムの制作やプロモーションを行う。このローテーションを休まず続けてきた。「40年を超えるキャリアで5000回のライヴを行い、そのパフォーマンスは更に力強さを増している」ロックの殿堂式典でのキッド・ロックによる、ライヴ・バンドとしてのCheap Trickを讃えるスピーチもまだ記憶に新しいところだ。

  そして、2016年も走り続けてきたCheap Trickが3年ぶりに待望の来日を果たした。まず、英国「Classic Rock Magazine」主催のクラシック・ロック・アワードの第1弾の出演者として発表がなされ、その後大阪、名古屋、大阪での単独公演3公演が告知された。私は、今回クラシック・ロック・アワードと東京・新木場スタジオコーストでの単独公演を観ることができた。

  両国国技館で行われた「クラシック・ロック・アワード」 出演者のジミー・ペイジが演奏を行わず物議を醸した、日本初開催となるこのイベントは、結局4時間近くに及ぶ長丁場になったのだが、Cheap Trickはオープニング・セレモニーの後に最初の出演アーティストとして登場した。2016年度の"Showmen Of The Year"を受賞したCheap Trickは、司会のデイヴ・ムステイン(Megadeth)に迎えられ壇上へ。リックは「また武道館へ戻って来れて嬉しい」とジョークを言い笑わせる。受賞者のスピーチの後のライヴ演奏。何と4曲も演ってくれたのには驚いた。
- Classic Rock Award set list -
1.I Want You To Want Me
2.When I Wake Up Tomorrow
3.Dream Police
4.Surrender
  単独公演の前の試金石的な短時間のライヴ。果たしてバンドの状態はどうだろうかと少し冷静に見たが、非常に調子が良いように感じた。ロックのライヴを全く想定していないであろう、国技館という特殊なホールでも、Cheap Trickの音のクオリティの高さは変わらない。演奏も、秋のアメリカのツアーでの好調さを維持しているようで実に切れ味が良い。特にロビン(珍しい、フード付きジャケットを着て登場)の声の伸び、張りが素晴らしく、2013年の来日よりも良いように思えた。日本初披露の新曲"When I Wake Up Tomorrow"を含む、代表曲4曲を一気に演奏したCheap Trickは、短時間で現役バンドとしての凄みを見せつけた。

  ダックス・ニールセン加入以降、セットリストを公演毎に大きく入れ換え、時に長らく演奏していなかったレアな曲も組み込んだライヴを行っているCheap Trickであるが、昨年あたりからライヴにおける選曲のサプライズがより多くなっている気がしていた。面白いことに、Cheap Trickは昔ツアーでキーボードをサポートにつけていた時代よりも、ライヴにおける選曲の幅が広がり、自由度が増しているのだ。ライヴの多彩さに加え、世界屈指のライヴ・バンドとしての演奏の安定感。今年は前述したロックの殿堂入りに加え、「Bang, Zoom, Crazy...Hello」(以下BZCH)という強力なアルバムをリリースし、これまでになく追い風に乗っている最高の状態のバンドが見れると、期待は膨らんでいた。

  しかし、初日11/13の大阪ピロティ・ホールでのセットリストを見たときはあれっ?と思ってしまった。新曲2曲とトムが歌う"Waiting For The Man"を除くと、殆どが前回の来日公演でもプレイされた曲。カヴァー曲が多く、基本的な構成は来日前のアメリカツアーで行っていたセットリストとほぼ同じ。ライヴを見たお友達からは、ライヴとても盛り上がって良かったと聞いて嬉しかったのだが、日本公演ならではの選曲はないのかな?と思ってしまったのも正直なところだった。

  ところが…14日の名古屋のセットリスト見て驚愕。"Heart On The Line"から"Hello There"へ繋ぐオープニングから、以降の選曲も大半が大阪のそれとは入れ替わっているではないか!たった3回の単独公演で、まさかオープニングも変えてしまうとは。実際に名古屋のライヴを見たわけではないのだが、今のバンドと、バンドの周囲の状態の良さが伺え嫌がおうにも東京公演への期待値が上がった。そして、16日新木場スタジオコーストでの最終公演。
Robin Zander
ロビンは帽子、スーツの上下と全身白できめた衣装で登場!
  収容人数2400人のスタジオコーストは、ほぼ満員の観客で埋まっていた。ライヴ開始前から感じる、これまでのCheap Trickのライヴで感じたことのないファンのテンションの高さ。オープニングSEが終わり、照明が消えると同時にフロアのファンがどっとステージ前に押し寄せた。危ない!前後左右から押されながら、何とか足場を確保する私。1曲目は"Hello There"だ。「BZCH」収録曲の中でも"Heart On The Line"が特にライヴで聴きたい1曲だった私は、今日は無しかと少々ガッカリしたのだが、間髪入れず続いた"Long Time No See Ya"に驚きで思わず声を上げてしまった。「BZCH」収録の新曲の中で、最も早くからライヴで披露されていたが、アルバムのリリース以降演奏されることが少なくなり、最近はついにセットリストから完全に消えてしまったこの曲。いきなりプレイされた"Long Time No See Ya"で「今日のライヴは凄いことになる!」と予感したのは私だけではないと思う。

  そして、果たせるかな序盤からサプライズが続いた。一気に1stアルバムまで時代を遡り"He's A Whore" そして同じく1stより"Hot Love"長らく、オフィシャル・サイトで発表されるライヴのセットリストをチェックしているが、こういった序盤の曲の流れ、選曲は記憶にない。名古屋公演では1stアルバムを代表する"ヘヴィ" "重厚"系の2曲。"The Ballad Of TV Violence"と"Taxman Mr.Thief"をプレイしていたが、対照的にこの日は軽快でノリの良いHRチューンを2曲連発。この強力な掴みで一気にフロアに熱狂を生み出した。

  続いたのは何と「Standing On The Edge」収録のスマッシュ・ヒット"Tonight It's You"!意外にもこれが日本でのライヴ初披露となる。2000年代に入ってから、頻度は少ないもののセット・リストに入るようになったこの曲は、これまでのライヴ・バージョンのような、ベースとドラムスによるドッドッドッという短いイントロダクションなしに、アルバムのバージョンに近いアレンジで演奏された。ロビンはレンジの広い歌メロをしっかり歌い上げ、楽器隊も曲の持つドラマチックさを完璧に再現。素晴らしかった。

  ここでリックのMCが入る。クラシック・ロック・アワードで一緒になったジェフ・ベックについて「このギターはジェフ・ベックに借りたものなんだ。彼がここに居なくて助かった」 (笑)「次の曲はトッド・ラングレンがプロデュースしたアルバムから。ライヴはアルバムのバージョンよりベターだよ」とコメントし"Borderline"をスタート。2000年代初期からよくライヴでプレイされるようになり、近年更にセットリストに入る頻度が増えている"隠れた名曲"といって良い曲だ。Cheap Trickならではのポップ・センスが、ライヴではドライヴする重厚なリズム隊によってプラスαの魅力が加味されている。
Rick Nielsen
ギター・プレイは勿論、曲間でのトークも冴え渡っていたリック
※写真は11/15名古屋公演より
  「俺達がCheap Trickだ!皆に会えて嬉しいよ。次の曲は…『Lap Of Luxury』の曲だっけ?」とリックはロビンに確認。ロビンが「Woke Up With A Monster」だよ!と答える。Cheap Trick史上に残る名曲の1曲といえる"Didn't Know I Had It"は、この日プレイされた唯一の1990年代の曲になった。"Tonight It's You" "Borderline" "Didn't Know I Had It"と、皆セールス的には恵まれていなかった時期の曲ながら、いつの時代も常に良質のメロディを産み出してきたCheap Trickの創造力には改めて感嘆させられた。

  再び時間は70年代まで遡り「Heaven Tonight」アルバムから"High Roller" 久々に聴けて嬉しかったのだが、「Heaven Tonight」なら何故もっとライヴ向きの"On Top Of The World" "Stiff Competition" 辺りを演らないんだろう?…と一瞬考えたものの、この日のこれまでの流れや、名古屋、大阪公演のセットリストを思い返していて気付いた。Cheap Trickは、今回の来日公演でライヴ毎に各時代の曲を満遍なくプレイし、歴史を総括すると同時に3公演全て体験することで完成するパズルを組み立てているのではないかと…。私は、今回単独公演は1公演のみの観戦だったが、これまで以上にCheap Trickの奥深さと引き出しの多さ、そしてメンバーの日本のファンに対する愛情を感じることができた。

  「俺達ニューアルバムを出したって言ったっけ?」「今日が日本で最後のショウだ(泣き真似) 日本に最初に来てから40年経った。皆のこと愛してるよ」とリックがMCをして「BZCH」よりアルバムのリーダー・トラックになった"No Direction Home" キャッチーなコーラス・パートを一緒に歌い、手を挙げ盛り上がる観客を見て、日本のファンであることがちょっと誇らしくなった。海外でのライヴ映像を見ても、この曲でここまで盛り上がるのは見たことがない!

  リック「次はリクエストをもらった曲だ。"Blood Red Lips"ここまで来ると、驚きを通り越してもう口あんぐりという感じだった。 夏場のアメリカのツアーで3回ほど演奏されたことがあるだけの新曲である。60〜70年代的なポップな歌メロを備えた名曲だが、コーラス・ハーモニーから始まる構成は決してライヴで演奏するのは(特にロビンは)簡単ではないだろう。ファンか関係者のリクエストとはいえ、この曲を臨機に応じてセットリストに組み込めるのが今のCheap Trickの凄さだと思う。演奏も素晴らしかった。驚きは更に続く。前作「The Latest」から、サイケでガッツィーなHRチューン"Sick Man Of Europe" 「The Latest」の曲は今回は聴けないと思っていた。身体の芯まで響くようなグルーヴィーで重いドラムスとベース。空間を切り刻むような荒々しいギター・リフ。勿論、ロビンのシャウト・ヴォーカルもとても年齢を感じさせない強力なものだった。前回の来日公演を見れなかったファンにとっても良いプレゼントになったのではないだろうか?

  ここで恒例の、トムが主役の時間。1996年の来日公演以来となるThe Velvet Undergroundのカヴァー"Waiting For The Man" トムは声が良く出ていたし、ベースプレイもクールだった!アコースティック・ギターでサポートしたロビンがステージ前方まで出て来てくれて、ロビンの表情が良く見えたのと、ロビンの繊細なギターの音がはっきり聴こえたのも嬉しかった。
Tom Petersson
トムが歌う"Waiting For The Man"は20年ぶりに日本公演で披露された
※写真は11/15名古屋公演より
  全米no.1ヒット"The Flame" この美しいバラードは、かつてはバンドのライヴのレパートリーにおける"鬼っ子"的存在であったこともあったが、今ではメンバーにとっても、ファンにとっても最早好き嫌いを超えた存在になっているのではないだろうか?ロビンが1番の歌詞を間違えて歌ってしまったのはご愛敬。そのスイートでありながら力強くもあるヴォーカルは相変わらず素晴らしかった。

  本編ラストは"I Want You To Want Me"と、"Dream Police"という鉄板の代表曲2連発。当然ファンの熱狂はこの日最高潮に達したが、ここまでフロアーのテンションが上がっているのを見たのは、私が知る限りでは2001年の横浜ベイホール公演以来という気がする(ヒートし過ぎて危ない場面も何度かありましたが。事故が起こらず良かった!) 演奏も、ロビンのヴォーカルも全く衰えを見せぬまま、本編は終了。

  アンコールに応え再びメンバーが登場。「本当にもっと聴きたいか?OK」リックのお約束のMCだ。「今日は至るところからファンが来てくれている。アメリカ、中国、そして…東京から(小声で)」これを演らずには終われない"Surrender"!会場が一体となって大盛り上がり。やっぱりCheap Trickのライヴは楽しい!

  しかし、あれ…今日は"Never Had A Lot To Lose"演らなかったな?と思っているとダックスがドラムスを叩き始める。"Gonna Raise Hell"だ!私的に、特に聴きたかった曲の1曲。最近のセットリストでは"Need Your Love"を入れていることが多く、今回の来日では無いだろうと予想していただけに喜びが大きかった。多彩な表情を見せるリックのギター・ワーク、唸るトムのベース、ロビンの熱く激しいヴォーカル。そして、ライヴならではのダックスのドラム・ソロをフィーチュアしたこの長尺のヘヴィ・ロック曲にはHRバンドとしてのCheap Trickの真髄と、今を生きるメンバーの生きざまが封じ込められていたように思う。"Gonna Raise Hell"の余韻がまだ残るうちに、バンドは一気に"Goodnight Now"に突入。最後までハイ・テンションのまま約100分、全19曲のライヴを終えた。

  2013年の来日公演同様、今回も「これが最後の来日かもしれない」と少し感傷的な気持ちも持ちつつ見たライヴであったが、終わってみればこれまで以上にパワフルで張りのあるパフォーマンスだった。セットリストの充実ぶりも言うまでもない。これが、世界屈指のワーキングバンドの凄さなのだろうか。Cheap Trickは、これからもきっと多くの楽しみをファンに与えてくれる。そんなポジティヴな思いしか浮かばない素晴らしいライヴだった。
(11/26/2016)
Daxx Nielsen
ライヴ終了後に、たくさんのドラムスティックを投げ入れ
ファンにプレゼントしたダックス・ニールセン
 
- Shinkiba Studio Coast set list - 
1.Hello There
2.Long Time No See Ya
3.He's A Whore
4.Hot Love
5.Tonight It's You
6.Borderline
7.Didn't Know I Had It
8.High Roller
9.I Can't Take It
10.No Direction Home
11.Blood Red Lips
12.Sick Man Of Europe
13.Waitin' For The Man
14.The Flame
15.I Want You To Want Me 
16.Dream Police
17.Surrender
18.Gonna Raise Hell
19.Goodnight Now
Classic Rock Award Ticket
Shinkiba Studio Coast 11/16 Ticket

 
Through The Night
  




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