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管理人の2006年ジャパンツアー東京2公演リポート
C.C.Lemon Hall, Shibuya Oct,13
  開演前のステージ上を横切ったスキンヘッドの男性。おや、どこかで見た顔…と思いきや何とそれはAnthraxのスコット・イアン(「Loud Park」出演の為来日中)の姿であった。これはアンコールの"Auf Wiedersehen"でゲストで出てくるのだろう…と開演前に普通に出てきて展開を「種明かし」するのはどうかとも思うが、この気負いの無いほのぼのした空気が何ともCheap Trickのライブらしくもあって。

  定時を数分過ぎ、バン・Eを先頭にメンバーがぞろぞろとステージに登場。どうやら、サポート・キーボーディストはなしで、4人のみでプレイするようだ。オープニングの定番"Hello There"のパワフルなコードが場内に鳴り響く。リックの身のこなしは軽い。かなり調子は良さそうだ。トムはいつものようにやや伏し目がちの姿勢でクールに演奏する。ロビンは黒いロゴTシャツに…あのつばの広い帽子(正式名称が?)を被っている。せっかく6列目という恵まれた席なのにロビンの表情が見えない!

  70年代からずっと、その冷ややかなヘヴィさを持ってライブの序盤を締める役割を果たしてきた"Big Eyes"への流れは、何度聴いてもそのカッコ良さにため息が出る。しかし、ここでちょっと違和感を覚えた私。音のバランスが妙に悪い…。各楽器、ロビンのヴォーカルの分離が悪く、更に、過去に観たCheap Trickのライブに比べて低音があまり効いていない(トムのベースはライヴを通してよく響いていたが) メロディ、そして何よりロビンのヴォーカルに迫力が感じられないのだ。

  「次は1977年の曲、僕が生まれる前の曲だ。君達も生まれてないかもしれないけど」リックが、いつものジョークを挟んでデビュー・アルバムより"Oh Candy" この曲は音の悪さを気にせず楽しめた。ポップで切ないメロディ、身体に心地よく響くギター、そしてちょっぴり危うい雰囲気を備えたこの曲は、30年の時を経ても全く輝きを失わない永遠の傑作である。

  「Rockford」アルバムのジャケットそのままの、メンバーのキャラクターがプリントされた真四角(!)のギターを肩にかけたリック「次は新作『Rockford』からの曲だ」"Welcome To The World"は本来であれば、アルバム同様オープニング曲に持ってきたいインパクトを持った曲だが、コーラス・ハーモニーから入るので音のバランスを調節するのが難しいのかもしれない。イントロにリックの16小節のギター・リフがつき、ライヴ用にアレンジされたこの新曲は、CD同様にスピーディ且つド・キャッチーなメロディがしっかり再現され、心地よい空気を運んできてくれた。

  続いては80年代の代表曲の1曲"If You Want My Love" 何度聴いても飽きることのないシンプル、しかしフックに満ちた哀感あるメロディ。このような名曲をライヴ序盤に惜しげもなく持ってこれるのが今更ながらに凄い。観客の年齢層が高いせいか、会場内に振られる手の数は決して多くなかったが(私も遠慮してしまった・汗) 再び新作から、アルバムのリーダー・トラックとなった"Perfect Stranger" 「キャッチーここに極まれり」というCTのポップ・センスが凝縮された曲だ。80年代なら相当なヒット曲になっていたのではないだろうか。トムの軽やかなベース・ラインも実に心地よい。

  「次はスローな曲。Em、CそしてAの3コードの曲だ」個人的に特に期待していた前作「Special One」収録の傑作"Best Friend" そのダークなギターのイントロと、ズブズブと沈み込むようなロビンの低音ヴォイスが今日一番の緊張感を会場に生んだ、が…ここでは今日の音響の悪さが如実に出てしまった。各インストゥルメンツはともかく、要であるロビンのヴォーカルの出音が低すぎる為、曲の持つダイナミズムが伝わってこないのだ。本来なら、曲を知らない人でも曲の世界にグイっと引き込むだけの強烈さを備えた曲の筈なのだが、2003年のサマー・ソニックで魅せたような背筋がぞくぞくするほどのエキサイトメントを得ることはできなかった。ロビンのヴォーカル・パート〜後半、シャウトを連続するところ〜が短く、エンディングをリックのギター・ソロで引っ張ったのも、元々そういうアレンジを考えていたのか、はたまた……?

  しかし、続く"I Want You To Want Me"がそのもやもやを一気に吹き飛ばす! 会場内に起こる大きな歓声。閃きとアイディアが凝縮された、才気溢れるギター・アレンジを、ステージを大きく使ったパフォーマンスで魅せるリックは、まさにエンターテイナーと呼ぶにふさわしい。「12弦ベースの発明者、トム・ピーターソン!」 トムがリード・ヴォーカルをとるこの曲。決してメロディ・センス云々で語る曲ではないが、その芯の太い強靭なリズムと、思わず一緒に歌いたくなるキャッチーなコーラスが気分を高揚させる。

  続く"Voices"もアルバム「Dream Police」より。「俺が世界で最も好きなシンガー」とのリックのお馴染みのMCでロビンが導かれ、あの優しく美しいメロディを歌う。2001年だったか、アコースティックな静かなアレンジでこの曲がプレイされるのを聞いたことがあるが、今日はいつものエレクトリック・バージョンで、大きく会場に音を響かせる。今では、昔のようにこの曲を聴いてほろりとすることも少なくなったが、その天才的としかいいようのないメロディの素晴らしさには何度聴いても圧倒させられる。

  新作からポップな"If It Takes A Lifetime" ギターを置いたロビンが、例の上半身を大きく前後に揺するアクションをみせながらエモーショナルな歌を聞かせる。静かでメロディアスなヴァース、ダイナミックなサビ。ロビンの声の表情の変化がものをいう曲なのだが、音が悪いためにメロディにメリハリがなかったのが返す返すも残念だ。席が5列めだった為、力を込めて歌うロビンの表情が帽子のひさしの奥に伺えたのはラッキーだった。"If It Takes A Lifetime"はもっとライヴで輝かすことのできる曲の筈…と、曲の持つポテンシャルは十分に感じることができた。

  そして、本編終盤で披露されたのが、以外にもセット・リストに復活した全米No.1ヒット"The Flame"である。日本で最後にプレイされたのは1994年か。バーニーのドコン、ドコンという重いリズム、中盤でのリックのギター・ソロ。ドラマ性を意識したアレンジも全く以前のままである。"The Flame"昔はあまりにリピートし過ぎて、やや飽きを感じてしまったものだが、やはり素晴らしい曲だ。このCheap Trickにとっての鬼っこといえる存在である曲が再びプレイされるようになった理由は果たして…? 「Rockford」というアルバムのカラーを意識したものなのか。

  意外といえば"That 70's Song"もちょっと驚かされる選曲であったが、この曲は意外なほど全体の流れの中に溶け込み、且つエンディング前をピリっと締める役割を果たしていた。タイトな各メンバーのプレイと、キャッチーなコーラスを叫ぶロビンの声に身体は自然に動き、一緒に歌っている自分に気付く。 "

  70's Song"のエンディングはそのままスムースに"Surrender"のイントロへ。1曲ごとにリックのイントロが挟まり、本来のCheap Trickと違いテンポの良さに欠ける…まったりした空気が支配的であった今日のライヴだが、本編最後はきっちりまとめた。あの重い5ネック・ギターを軽々操るリックをはじめ、各メンバーの動きの軽いこと! 老成という言葉とは無縁の、不変の美しさがそこにある。そして、100%ファンをエキサイトさせられるマスター・ピースを持っているアーティストの強さ。そして、それはアンコール最初の"Dream Police"にも通じる事。

  最後は、トムのヘヴィなベース・ソロから、ハードなサウンドの中に儚さ、刹那さが秘められた"Auf Wiedersehen" 予告どおり? スコット・イアンがゲストで登場し、実にパワフルに、そして楽しそうにギターをかき鳴らす。スコットの笑顔とアグレッシブな動きに刺激されたかのように、リック、ロビン、トムも実に楽しそうにプレイしているのが見て取れた。スコットは"Goodnight Now"も一緒にプレイし、満面の笑顔で去っていった。

  前述したように、この日のライヴは音響面、セットの構成をはじめ疑問の残る部分がいくつかあった。が、そのマイナス面はライヴ終盤の勢いと、最後にメンバー(とイアン)が見せてくれた笑顔が忘れさせてくれたといってよいだろう。そして、久しぶりにCheap Trickのライブを見て思ったのだ。もしかしたら、ポジティヴィティこそが永遠を与えてくれるのではないかということを。

(加筆修正:2022/2/23)

Set List -- Oct,13 Shibuya
1.Hello There
2.Big Eyes
3.Oh, Candy
4.Welcome To The World
5.If You Want My Love
6.Perfect Stranger
7.Best Friend
8.I Want You To Want Me
9.I Know What I Want
10.Voices
11.If It Takes A Lifetime
12.The Flame
13.That 70's Song
14.Surrender
-------------------
15.Dream Police
16.Auf Wiedersehen
17.Goodnight Now
Set List -- Oct,17 Shinjuku
1.Hello There
2.Clock Strikes Ten
3.He's A Whore
4.Welcome To The World
5.If You Want My Love
6.Come On,Come On,Come On
7.Perfect Stranger
8.I Want You To Want Me
9.I Know What I Want
10.Voices
11.If It Takes A Lifetime
12.The Flame
13.That 70's Song
14.Surrender
-------------------
15.Dream Police
16.Auf Wiedersehen
17.Goodnight Now


Kousei-nenkin-Kaikan, Shinjuku Oct,17
  この日もまず気になったのは出音だ。ロビンの声もリックのギター・サウンドも、"本来の音"が響いているとはお世辞にもいえず、低音も迫力に欠けるのだが、それでも13日と比べれば引き締まったサウンドが出ていたと思う。個人的に"Best Friend"がセット・リストから外されたのは残念だが、13日の観客の反応をみても、楽曲の細かなニュアンスとヘヴィさが十分伝わってこないサウンドの物足りなさを考慮しても、"He's A Whore"  "Clock Strikes Ten"  "Come On Come On Come On"といった勢い重視の曲を要所に持ってきたのは正解だろう。実際その効果はプラスとなり、序盤でのファスト・チューン畳み掛けは一気に観客の気持ちを掴んだし、リックがMCタイムを減らしたのとも相俟ってテンポよくショウは進んでいった。リックの表情・動きからモニターの音(演奏? 会場の反応?)に納得がいっていないのか…との様子も伺え、少々気にはなったが、プレイ自体は流石と思わせる安定感があり、「No Substitute」(リック)なCTの魅力は全編に渡って発揮されていたと思う。"普遍性"と"独自性"を同時に、30年の長きに渡って、しかもごく自然体で保ち続けてきたCTは、改めてなんと希有なバンドであることか…。
Through The Night




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