Cyndi Lauper at Shinjuku Kouseinenkin-Kaikan July,13 2004



Live...At Last(DVD) (2004)
  初めてのシンディのライヴ。まずはファンの熱気に驚かされた。2月に観たPretendersと同様、年齢層はかなり高いのだが、開演前の会場には既に「いよいよシンディに会える」  「ライヴを盛上げよう」というファンの熱が生み出す一体感が充満している。久々の厚生年金会館は2階席のステージに向かってやや右よりの席。思ったほど見晴らしは悪くない。ただ、流石にシンディの表情までは確認できなさそうだけれど…。
  シンディ・ローパーは私にとってはいわゆる「洋楽」という言葉を知る以前より存在を認知していた数少ないアーティスト。その音楽をはじめて"意識して"聴いた(CDを買った)のは1989年の「A Night To Remember」アルバム。が、正直いうと、熱心にシンディを聴くようになったのはここ数年のこと。素晴らしい内容の最新作「Shine」で、更にシンディの世界に深く入りこんだ私にとっては、今回の来日公演はまさにグッドタイミングだった。「Shine」アルバムの完全版が今の時点でリリースされているのが日本だけ、という状況を鑑みるに、日本では日本用の選曲を組むことは予想できたが、「ザ・ベスト・オブ・シンディ・ローパー」と題された今回の来日公演。往年のヒット曲連発の"80's懐メロ大会"になってしまうの可能性もあるのかな…という心配もあった。しかし、勿論シンディはそんなヤワな、過去の遺産に頼って生きるようなアーティストじゃなかったのだ。「Shine」の曲も4曲要所に組み込まれたセット・リスト。ノスタルジーの海に沈んだままでなく、シンディらしさに満ちた新曲、そして新たなアレンジが施された過去の名曲を感情いっぱいに、そして力強く歌い上げる、シンディのポジティヴィティこそがライヴの鍵だった。
  1階フロアを見渡すと、最前列の開けたスペースがまず目に飛び込む。ステージ下には"柵"が設置されておらず、広くスペースが開いている。簡単にシンディがステージから降りてこれるセッティングになっている。 開演時間を20分ほど過ぎ、場内が暗転。場内の大歓声に包まれてバンドメンバー、シンディ(黒のドレス)がステージに登場。一曲めは「At Last」のCD、DVD同様"At Last"だ。スティーヴ・ガボウリーのキーボードをバックに力強く歌い上げるシンディ。上手い。艶やかな歌声に最初の数小節でいきなり胸を鷲掴みにされてしまった。CD、DVDで聴くのと同様、いやそれ以上に張りのある、そしてエモーショナルな声がこの2階席までまっすぐに突き抜けてくる。At Lastの麗しい余韻に浸る間もなく、サム・メレンディーノの重いドラムが響き渡り、「Shine」のアルバム・タイトル・トラックがスタート。歌も演奏も凄くパワフル。一瞬にして空気はロック・モードへ。そして早くも、シンディが客席へ飛込んだ! 1階席前方のファンはもう大騒ぎだ。 しかしこのシンディらしいポジティヴィティに満ちた"Shine"  生で聴くとより一層素晴らしい。間違いなくシンディの新たなクラシックとして残る名曲だろう。心臓の鼓動のような重いベース・ラインが響き、屈んだシンディがステージ中央に置かれた小さなプレートを力強く叩き始める。1986年の大ヒット・シングル"Change Of Heart"のスタートの合図だ。ブラック/ファンク・ミュージックからの影響が顕著な曲だが、ライヴで聴くとCDよりずっとロックして聞こえる。プリンス他数多くの大物アーティストとの共演の経験も豊富な女性ギタリスト、カット・ダイソンのプレイがタイトで素晴らしいのだが、こういったファンキーで且つハ−ドにロックしたミクスチャー空間を作れるのは彼女の貢献度の高さがあってこそ、だろう。シンディのアクションもあの"Change Of Heart"のPVでのそれに勝るとも劣らず激しい。なんて若々しいのだろう。中間部、カットとバイオリンのデニー・ボーンズによる掛け合いソロに合わせて激しいアクションをとるシンディの姿が未だ目に焼きついている。4曲め、シンディがステージ中央に設置したダルシマーを弾きながら歌ったのは「Shine」アルバムより"Wide Open"  やや地味目ながら、感情に訴える素晴らしい歌詞を持った味わい深い曲だ。中間部でシンディが吹いたフルート(きちんとしたフルートの教育は受けていないそうですが)も良い味を出している。続く"Madonna Whore"も同様にリズミカルで、非常にシンディらしさの表れた曲なのだが、演奏の途中で機材トラブルか何かがあったらしく、シンディはバンドに演奏のストップを指示し、「チョットマッテクダサイ」 と日本語でMC。ほどなくして演奏は再開された。この日はツアー初日ということもあって不具合もいろいろあったようで、曲間でメンテナンスの為時間をとる度にシンディは「初日だから(許してね)」と言っていたが、シンディの愛らしいキャラクターと気の利いたMCのおかげで、そのブランクはほとんど気にならなかった。"She Bop"は予想通り「Live...At Last」と同じく"フレンチ・バージョン"  スティーヴのアコーディオンとシンディのゆったりとした歌い方がいい味を出しているが、正直この曲はオリジナルのアレンジで聴きたかったな。  "I Drove All Night"  シンディの書いた曲ではないが、シンディのキャラクターにぴったり合った、まさにシンディの為に書かれたような曲だと思う。大好きな曲だ。ステージ上手奥に置かれたピアノに仰向けになった状態で歌い始めたシンディ。サビではあの独特の"横滑りステップ"を披露。"She Bop"とは対照的に"I Drove All Night"はオリジナルにかなり忠実なアレンジ。感激です。なんて素敵な曲なんだろう!  それにしてもシンディは上手いなあ。これだけのアクションを加えながら、決して平易ではないメロディ・ラインをCDに忠実に、しかしそれ以上のエモーションを込めて聴かせてくれるんだから。ヴァースの"burning me up inside〜"でのファルセットも完璧に決まった。"Sisters Of Avalon"はいつもCDで聴いてもあまりピンとこない曲の一曲なのだが、生で聴くと意外なほどいい。こんなにライヴ向けの曲だったのですね。「この曲に関われたことを幸運に思います…」というシンディのMCの後、静かに始まったのは…そう、この曲を聴かずには帰れない。名曲中の名曲"True Colors"  美しいとはこの曲のことをいうのだろう。身体全体に染み渡ってくるようなシンディのささやくような歌唱。そしてクライマックスでは"Don't Be Afraid!"と感情を爆発させる。デニー・ボネットのエレクトリック・バイオリンによる煌びやかなイントロダクションに導かれたのは、1stアルバム収録の名曲"All Through The Night"  まるでシンディの体温まで2階席のこちらまで伝わってくるような暖かみに満ちたうた。感動しました。"All Through〜"を歌い終わると、シンディはステージ袖から日本人女性の通訳氏を呼び、ストゥールに座らせる。そして曲についてのエピソードを彼女にマイクを通して訳させるのだが、シンディってば身振り手振りでしゃべりまくるんだもん(笑)  通訳氏も大変だ。ひとしきり話した後、「ついてこれる?」(笑)と訊くシンディには通訳氏も苦笑いするしかない。"It's Hard To Be Me"のアイディアは、1994年にテキサス州の石油業界の大物、J・ハワード・マーシャル氏と結婚した元「Playboy」誌のプレイメイト、アンナ・ニコル・スミス(ちなみに、結婚時スミスは26才、マーシャル氏はなんと89才(!)だった)がマーシャルの遺産相続に関する審理中に発した言葉が元になっているという。(アンナについての歌ではなく、ジョークであるとシンディは語っている)  シンディの「1、2、3、4!」というカウントでスタートした"It's Hard To Be Me"はまさに「爆発」という表現がぴったりな恐ろしくパワフルなロック・チューン。シンディのヴォーカルもアクションもこの日一番の激しさだ。そしてその勢いそのままに本編最後は1stアルバム「She's So Unusual」収録のクラシック"Money Changes Everything"  シンディのパワーはここへきても衰えることを知らない。この声の伸び、透明感。そしてしなやかな立ち振る舞い。とても私とふたまわりも年が離れているとは思えない。曲のアレンジもほぼCDのそれと忠実なかたちになっているが、シンディはまるで曲に合わせて時間を遡っているかの様だ。画像で見る20年前の動きと変わらないんだから!  アンコール1曲めは、幼い頃の日曜日の礼拝、そしてエド・サリバン・ショー(シンディはこのテレビ番組でエディット・ピアフが歌うのを聞いたそう)のエピソードを話してから「At Last」収録の"La Vie En Rose"へ。スティーヴのキーボードに合わせ、手でゆったりとリズムをとりながらメロウな歌を聞かせるシンディ。そして、アンコール2曲めは…私の最も楽しみにしていた曲。"Time After Time"は「Live...At Last」同様、シンディがダルシマーを弾きながら歌うアコースティックなバージョンで披露された。正直、オリジナルに思い入れがありすぎる為に、DVDでこのバージョンを聴いた時は違和感を覚えた私だが、生で聴くそれは本当に素晴らしかった。装飾を抑えた剥き出しのインストゥルメンツをバックに、言葉ひとつひとつをかみ締める様に歌うシンディ。…あなたは言った/もっとゆっくり/私は追い越され/秒針が巻き戻される…というコーラスを聴くと、この曲が"必要としている"のは、実はこのシンプルなアレンジではないかと思えるのだ。そして最後の曲はリズムを強調したエスニック調(?)アレンジの"Girls Just Want To Have Fun"  中間部では"Hey Now(Girls Just Want To Have Fun)"のパートも盛り込まれ、一旦ブレイクした後、シンディが会場を二手に分け、ファン同士でコーラス合戦をさせる。よくある手法だが、流石シンディは盛上げ方が上手い。自ら声を張り上げてコーラスの指揮をとるカットとデニーも大活躍だ。そうそう、どうしてもシンディのことばかり触れてしまったけれど、バック・バンドのメンバーも皆卓越したアーティスト揃いで、安心して演奏に浸ることが出来た。ウィリアム・ウィットマン(ベース)が見れたのも嬉しかったなあ。今日のライヴ。終わるまでの間、心の中では楽しさ、切なさ、懐かしさ、様々な感情が渦巻いていた。でも、この日シンディから貰った一番のものは「ゲンキ」だね。ありがとうシンディ。さあ、明日も仕事頑張ろう。


Shine(2004)

* Set List *

1.At Last
2.Shine
3.Change Of Heart
4.Wide Open
5.Madonna Whore
6.She Bop
7.I Drove All Night
8.Sisters Of Avalon
9.True Colors
10.All Through The Night
11.It's Hard To Be Me
12.Money Changes Everything
13.La Vie En Rose
14.Time After Time
15.Girls Just Want To Have Fun
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