Styx Live at Kousei-Nenkin Kaikan Feb,11 2000

  最新作「Brave New World」が完全にトミ−・ショウ主導でつくられたアルバムだったので、今更デニス・デ・ヤング、チャック・パノッゾが脱退したといっても特に驚かなかったが、このメンバ−で"Styx"を名乗って来日するとなると、流石に違和感を覚える人は少なくなかったはずである。個人的には、デニス不在にはやはり物足りなさを感じたものの、今回ベ−スをプレイしたグレン・バ−トニックがフェイバリット・ア−ティストなので、「グレンを見る事ができればStyxであろうとなかろうととりあえずOK」といった軽い気持ちで会場へ向かった。が、しかし。ライヴも15分ほど進んだ頃には抱いていたいくつかの疑問、わだかまりは消え、Styxの世界に完全に引き込まれていた。これがヴェテランならではの安定感、自信というものか。良く練られた構成で、卓越した演奏で、素晴らしいサウンドであの名曲の数々を聴かせてくれるのだから、ケチのつけようがない。ポイントとしては、代役を務めたグレン、ロ−レンス・ゴ−ワンがどれだけ存在感を主張できるか、ということにあったと思うが、これは全く問題なかった。確かにデニスは居なかったし、これは1回限りの"プロジェクト"かもしれない。そして5人のメンバ−はソロ・ア−テイストとしては決してビッグ・スタ−というわけではない。しかし、それぞれのメンバ−が、互いの光を消すことなく平等に個を主張しつつも、そこには+αのある共同体が確固として存在するという、間違いなく"ロック・バンド"らしさを感じさせるライヴだった。トミ−・ショウの親しみやすいキャラクタ−、ジェイムス・ヤングのアグレッシヴなギタ−・プレイ、ロ−レンス・ゴ−ワンの名エンタ−テイナ−ぶり、グレン・バ−トニックの多彩(才)さ、トッド・ズッカ−マンのヘヴィなドラムスが渾然と融合した、現役のミュ−ジシャンによるプロフェッショナルなライヴであり、素直に楽しいと思える時間を過ごすことができた。
 昔のヒット曲・代表曲を中心に演奏し、中盤にアコ−スティック・セットを挟むという構成は期待通り。新作からの曲は2曲だけだったが、スピ−ディな"Everything Is Cool"をオ−プニングに持ってきたのは正解だったし、アルバムのタイトル・チュ−ン"Brave New World"も要所でいい緊張感を生み出していた。
 
 ロ−レンス・ゴ−ワンに関してはほとんど予備知識がなかったのだが、その伸びやかで艶のあるヴォ−カルと多彩なキ−ボ−ド・プレイはデニスの穴を埋めるに十分で、カナダではかなりの人気ミュ−ジシャンであるというその実力の程を窺わせてくれた。回転式のキ−ボ−ドを器用に操る彼は、単なる"キ−ボ−ド件ヴォ−カル"という役割に留まらず、自分がリ−ドをとらない曲でも常に派手なアクションで観客の目を引きつけていた。勢いが良すぎてミスをする部分もあったものの、"Lady" "Come Sail Away"といった曲ではロ−レンス・ゴ−ワンの発するダイナミズムが、楽曲の持つドラマティックさを増幅させていたといってよい。セット・チェンジの間のちょっとしたキ−ボ−ド・ソロも飽きさせなかった。ライヴが終った後、彼のユニ−クなキャラクタ−の印象が最も強く残っていたという人は私だけではないはずだ。
 楽しみにしていたグレンについては、彼がリ−ド・ヴォ−カルをとった曲は「Edge Of The Century」アルバム(1990)のタイトル・チュ−ン、そしてアコ−スティック・セットの"Sometimes Love Just Ain't Enough"(パティ・スマイス&ドン・ヘンリ−が歌って1992年に大ヒットした曲)の2曲だけで、またマルチ・プレイヤ−である彼の側面もアピ−ルするには至らなかった。しかし、初めて生で聴く彼のハスキ−なヴォ−カルはやはり魅力的であったし、他人に提供した曲とはいえ"Sometimes〜"までプレイしてくれたのには感激した。
 トミ−・ショウ、ジェイムス・ヤング、トッド・ズッカ−マンの余裕あるプレイに関してはもう何も言うことはなく、実に安心して見る事ができた。ユ−モア溢れる掛け合い(コント?(笑))なども織り込んだ、アメリカン・ロックの醍醐味たる陽気な空間に見を委ねる一方で、"Grand Illusion" "Snowblind"といった曲では思わず背筋をピンと伸ばしてしまうようなドラマ性と叙情味を発散するという、いかにもStyxらしいバラエティが活きた、最後まで飽きさせないライヴだったといえる。ライヴ・ビデオ「Return To Paradise」のスケ−ル感と比較するのはナンセンスだが、ステ−ジ・セット、演出がシンプルな分、楽曲の世界にしっかり入り込むことができた。
 それから改めて実感したのは、トミ−・ショウが実に日本向けのミュ−ジシャンであるということ。小柄で愛嬌のある彼のキャラクタ−は、例えばロビン・ザンダ−などと比較すると、より身近さを日本人に感じさせているような気がする。勿論ギタ−・プレイでも魅了してくれた。
 繰り返しになるが、それぞれのメンバ−の個性が強いため、この5人での再来日公演は恐らく2度と実現することはないだろう。ある意味ではとても貴重なライヴだったといえる。そして"Styxの一員"という制限があり、今回はその才能の一辺しか日本のファンに見せることのできなかったロ−レンス・ゴ−ワンとグレン・バ−トニックには是非ともソロ・ア−ティストとしての再来日に期待したい。

(このレビュ−は、2000年当時雑誌に投稿して不採用になった原稿に加筆訂正したものです)
 
1.Everything Is Cool(「Brave New World」1999)
2.Grand Illusion(「The Grand Illusion」1977)
3.Blue Collar Man(「Pieces Of Eight」1978)
4.Lorelei(「Equinox」1975)
5.Lady(「Styx U」1973)
6.Brave New World(「Brave New World」1999)
7.Edge Of The Century(「Edge Of The Century」1990)
 inc.Mr.Roboto(「Kilroy Was Here」1983)
8.Snowblind(「Paradise Theater」1981)
9.Crystal Ball(「Crystal Ball」1976)
 
  * Unplugged Set *
10.Boat On The River(「Cornerstone」1979)
11.Sometimes Love Just Ain't Enough(Patty Smyth「Patty Smyth」1992)
12.High Enough(Damn Yankees「Damn Yankees」1990)
13.Best Of Times(「Paradise Theater」1981)
 
14.Introduction〜Rockin' The Paradise(「Paradise Theater」1981)
15.Fooling Yourself(The Angry Young Man)(「The Grand Illusion」1977)
16.Too Much Time On My Hands(「Paradise Theater」1981)
17.Miss America(「The Grand Illusion」1977)
18.Come Sail Away(「The Grand Illusion」1977)
 
  * Encore *
19.Tush(ZZ Top「Fandango」1973)
20.Renegade(「Pieces Of Eight」1978)

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