Disc Review
旧譜、新譜問わず、お勧めのCD/DVD作品を紹介します。
新譜(おおよそ3ヶ月以内にリリースされた作品)には
マークがついています。
は管理人のお勧め度で、星5つで最高。
2つで大体平均点と考えてください(
は1/2点)
※2003年9月以前のCDレビューはこちらです
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2005年 2月(no.164〜)
Judas Priest/Angel Of Retribution
<172>Judas Priest
/Angel Of Retribution
(Japanese CD+DVD/2005)

★★★★
  この☆4つというのはあくまでもCDとDVDがセットになった日本盤の初回限定版に対しての感想で、CD本体のみなら個人的お勧め度は☆半コ、さもなくば1コ分落ちるだろう。まず何より「15年というのは長いんだなあ」と感慨に耽らずにはいられなかった。15年のブランクがロブと他のメンバーに与えたものは何だったのか。過去、アルバム製作において常にその時代の音楽と併走する、若しくは時代の先をゆくサウンドを作り上げてきた彼らが、はじめて"音以前"に自分たち自身の歴史と対峙する必要に迫られたのである。 もちろん、ロブもグレンも新しい音楽を聴いて影響を受けていないわけは無いのだが、「Angel Of Retribution」はJP史上はじめて"JPの歴史"の重みがサウンドの同時代性を凌駕したアルバムのように思える。果たして楽曲のクオリティはどうか・・・といえば前述したように私はアルバムとして傑作とは思っていない。しかし、繰り返して聴くうち(過去の一連のアルバムも一緒に)、うん、これは非常にJPらしい力の入ったアルバムだと入り込んでいった。サウンドのモダンさやアグレッシヴさでいえば、明らかにリッパー時代の方が上だろう。"Machine Man" "Bloodsuckers"  "Jugulator"ほどのアグレッションとインパクトを持った曲がここにあるか? いや、ない。"Hellion〜Electric Eye"や"The Sentinel"ほどの構築美を備えた曲はあるか? ない。"Living After Midnight"  "You've Got Another Thing Comin'"くらいキャッチーなメロディを持ったアンセムになるような曲は? "A Touch Of Evil"ほど荘厳でドラマティックな曲は? "Before The Dawn"に匹敵する泣きを発散するバラードは? ・・・見当たらない。そう、ぶっちゃけこれは70〜80点の"ふつうに良い"楽曲が詰まった作品集なのだ。ロブのヴォーカルの衰えは明らかだし、ギター・リフにもソロにも昔のような"ひらめき"あるフレーズは聴かれない。しかしですね、もうここに詰め込まれたメンバーの"情念"と"気"といったらあーた、もう並じゃないのよ。そして、これは間違いなく「今の」JPにしかつくれない、他では聴けない音楽なのだ。オープニング。まだこれからだとばかりに"Judas Rising"と全身全霊でシャウト(宣言)するロブの声を聴いたらもう何もいえない。JPの最終章はもう少し先だよね? DVD?私はCD共々とても楽しめました!  (3/5/2005)
Salah Slean/Day One
<171>
Sarah Slean/Day One
(import CD/2005)
★★★★
  某CDストアの新譜コーナーで見つけて、気になったので購入。やっぱり、ジャケット・デザインのインパクトって大事だよね、うん。この印象的なブックレットのアートワークは全てサラ・スリーン本人の手によるもの。新人さんとばかり思ったら、なんと本国カナダでは既に3枚のアルバムをリリースしているそう。全く未知のアーティストだったのでいろいろ調べたところ、同じカナダのサラ・マクラクランを引き合いに出した評をいくつか見かけたが、はっきりいってサラには全く似てない。敢えていうなら、サウンドはトーリ・エイモスやキム・フォックス、Ben Folds Fiveあたりに類似するものを感じる(でも"なんとなく"程度のレベルだ)。ヴォーカルは曲によっては90年代にSun 60というバンドを率いて活躍したジョーン・ジョーンズそっくりに響くことがあり驚くが、恐らくサラはジョーン・ジョーンズのことは知らないだろうね(笑) とにかく、久々にユニークな女性SSWに出会った気がする。全曲本人作の楽曲は多彩のひとこと。1曲めの"Pilgrim"で飛び出す歪んだギター・サウンドに、おや、随分ストロングな・・・と最初一瞬たじろいだが、このパターンでくるのはこの1曲のみで、その後はアップ・テンポの"Lucky Me"  サラの軽やかなピアノと、美しいヴォーカル・ハーモニーをフィーチュアしたポップ・ロック"Day One"  ワルツ調の"Out In The Park"・・・と曲毎に鮮やかに表情を変えてゆく。最後にピアノの弾き語り"Your Wish Is My Wish" ストリングスをフィーチュアした"Wake Up"とパターンの違うバラードを2曲並べているのも心憎いねえ。曲調はそれぞれ異なれど、メロディはどこをとってもメロディアス且つキャッチー。最後の"Wake Up"終了後に収められたシークレット・トラックまで、サラの抜群のメロディ・センスを練り上げられた構成で楽しませてくれる。サラの基本インストゥルメンツはピアノ(キーボード)のようだが、アコースティック・ギターやストリングス・アレンジ等もこなす器用さをみせている。こりゃ相当な才能の持ち主だわ。一目惚れ(というかCD1枚惚れ)しました。アルバム全部揃えたいです。  (2/28/2005)
Joan Jones/Starlite Criminal <170>Joan Jones/Starlite Criminal
(import CD/1998)

★★★★
  90年代に優れた3枚のアルバムを残したLAのバンド、Sun 60の中心人物だったジョーン・ジョーンズのソロ・アルバム。1998年のリリースで、日本盤はリリースされていない。アコースティックな優しいサウンド中心の1st「Sun 60」 (1990)  ややロック色が濃くなりバラエティも増した2nd「Only」(1993) Soundgardenに女性ヴォーカルをフィーチュアし、ポップ風味を塗したようなラスト・アルバム「Headjoy」(1995)とアルバム毎にサウンドの形態を変えたSun60だが、どれにも共通していたのは、ジョーンのちょっぴりハスキー、でも伸びやかなヴォーカルを生かしたメロディアスでキャッチーな楽曲。その性格はこのソロ・アルバムにもしっかり受け継がれており、1曲めからラストまでジョーンの優れたメロディ・センスを堪能できる。Sun 60との最大の違いはインストゥルメンツの派手さは控えめに、ジョーンのヴォーカルの魅力をより前面に推し出していること。つまりは非常にソロ・アルバム"らしい"ソロ・アルバムに仕上がっているということだ。ジョーンの声はその声質からシェリル・クロウを連想する人が多いのではないかと思うが、じっくり聴けば音楽の方向性はかなり異なることがわかる。ジョーンの楽曲(このアルバムの曲は1曲を除いて全てジョーン一人で書いた曲)はアコースティック・ギターを多用し、ジョーン自身がプレイするトランペットをアクセントにした、ミディアム〜スロウ・テンポでじっくり聴かせる曲が中心。まあ、何にせよ90年代に、いやポピュラー音楽史に残る(言い切ってしまった!)名バラードといえるTr.2"Everyday Down"を聴けば他のアーティストとの比較などどうでも良くなる。それほど素晴らしい曲なのです"Everyday Down"は。女性ヴォーカルが好きな方は、とりあえず"Everyday Down"の為に「Starlite Criminal」をゲットですよ!(笑)  (3/7/2005)
Meja/The Nu Essential
<169>
Meja/The Nu Essential
(Japanese CD/2005)

★★★★
  かなり昔テレビ録画したABBAのドキュメンタリー番組を見ていたら、「アグネッタとフリーダのアメリカの英語とは違う独特のイントネーションも魅力だった・・・」なんてコメントが出てきたのだが、なるほど。勿論私程度の英語力じゃ、国ごと、地域ごとの微妙な発音の違いなんて言葉で説明できるわけなくて、ただ感覚でとらえるしかないのだが、北欧には美しい、はっきりした発音で歌うアーティストがとても多い気がする。ABBAの遺伝子を受け継ぐこのメイヤもまたしかりだ。個人的フェイバリット"All Bout The Money"は久々に私が歌詞カードを見ることなく、音を聴くだけで全ての歌詞とその内容を把握できた曲だった。素晴らしくポップなメロディ・センスとダイレクトなメッセージを備えた楽曲群。そしてそのメロディの魅力を最大限に活かす抜群の歌唱力。実はメイヤのことはずっと、"そこそこ"のSSWでしょうと数曲聴いただけで判断していたのだが、改めて各アルバムをきちんと聴いて先入観にも程があったと反省しきり。本当に才能豊かな人だ。多彩さと奥深さが同居しつつ、常にキャッチーなメロディも忘れないメイヤの音楽が堪能できるベスト・アルバム。メイヤは2002年にも「My Best」というベスト・アルバムを出してますが、はじめて買うなら迷わずボリュームで上をいっているこちらを。リッキー・マーティンと歌った"Private Emotion"(Hootersのカヴァー)も収録。  (2/21/2005)
Andrew Gold/All This And Heaven Too
<168>Andrew Gold
/All This And Heaven Too
(import CD/1978)

★★★★☆
  日本では1999年にイースト・ウエスト・ジャパンの"AOR名盤セレクション"シリーズで再発(これが世界初CD化だった)済。オリジナルは1978年に発表されたアンドリュー・ゴールドの3rdソロ・アルバムだ。個人的に、ここ数年非常に楽しませてもらった洋楽アルバムの一枚だが、ボーナス・トラック&アンドリュー本人のライナー・ノーツ付でリリースとなっては買いなおすしかない。 同時に再発された1st、2nd「What's Wrong With This Picture?」、4th「Whirlwind」と併せてまとめて揃えてしまいました(破産する・・・(^^;)  アンドリューの代表作というと先ず大ヒット"Lonely Boy"を含む「What's Wrong With This Picture?」(1977)か、このアルバムが挙げられるのではないかと思うが、最高傑作はと問われれば、微妙な差ではあるがメロディの充実度で上回る「All This And Heaven Too」に軍配を上げたい。何しろ曲が良い。メロディが良い。軽快なオープニングのポップ・チューン"How Can This Be Love"に続く"Oh Urania(Take Me Away)" 二コレット・ラーソンも後にカヴァーした"Still You Linger On"という泣きメロ炸裂の2連発でもう衝天だ。その後にもヒットした"Never Let Her Slip Away"  "Thank You For Being A Friend"をはじめアンドリューの甘く切ないメロディ・センスが活きた楽曲の連続。アルバムの中では異色であるが、ジャジーにまとめられた"Genevieve"にはアンドリューの多彩さと奥深さを垣間見れる。注目のボーナス・トラックは"Gambler"(「Whirlwind」収録)のヴァージョン#1、"Thank You For Being A Friend"のアウトテイク、1978年にLAでライヴ録音された"Dr. Robert"のカヴァー、"Genevieve"のオリジナル・バージョン、"Still You Linger On"のオルタネイト・テイク(ヴォーカルが無いのにやっぱり感動する!)という全5曲。アンドリューによるライナーも読み応え十分。アンドリューがグレン・フライにEagles加入を依頼されたことがあるという話、私はじめて聞いたよ。  (2/7/2005)
REO Speedwagon/Extended Versions <167>REO Speedwagon
/Extended Versions
(import CD/2004)

★★★☆
  いかにもブートっぽい怪しげなジャケットだが、このCollectable Recordsというレーベルからリリースされている「Extended Versions」というライヴ音源シリーズは、大手CDストアでは普通に並んでいる"一応は"正規盤CDなのである。これは昨年リリースされたREO Speedwagonのライヴ。CDラベルのクレジットと"157 Riverside Avenue"でのケヴィン・クローニンのMCを聞くと、どうやら2000年前後にセント・ルイスで録音された音源らしい。音質は良好で、ヴェテランらしい余裕たっぷりの演奏を臨場感あるサウンドで楽しめる。このCDに関しては先ずボーナスとして収録されている"157 Riverside Avenue"の映像(要Quicktime・恐らくCD本編と同じ音源)を見てほしい。まあ、既に5年近く前のライヴなわけだが、なにしろ若い!とてもキャリア30年を数えようとするバンドとは思えないパワフルさに満ち溢れているのだ。特にステージを駆け回り、絶妙のMC(古典的ではあるが)で客席を煽るケヴィンは、短髪にしてさっぱりしたルックスとも相俟って20年前より若く見えるほど(元々年齢より老けてみえる人だったのでそれも功を奏したか(笑))  このCDと併せて久々に1981年のライヴ・イン・ジャパンの音源(これはブート)を聴きかえしたのだが、音も昔より確実にパワーが増している。やはり、デイヴ・アマト(ギター)とブライアン・ヒット(ドラムス)の存在というのは大きいねえ。彼らのアグレッシヴなプレイと、ハードなサウンドは間違いなくバンドの寿命を延ばした筈だ。そしてつくづく感じるのがツアー"し続ける"ことの大切さ。同じヴェテラン・バンドでも、長いブランクがあるバンド、時々思い出したようにライヴをするバンドと、アルバムが売れようが売れまいが常に体を動かしているバンドとでは決定的な差がある。唯一残念なのは、選曲が全て70年代、80年代の代表曲・ヒット曲でまとめられていること。できれば"Live It Up"  "Love Is A Rock"  "Can’t Stop Rockin’"あたりも聴きたかったなあ。  (2/6/2005)
Cinderella/Still Climbing <166>Cinderella/Still Climbing
(Japanese CD/1994)
★★★★☆
   これはある意味トム・キーファーの"開き直り"が生んだ傑作である。世間ではCinderellaの代表作といえばセールス面で大成功を収めた「Long Cold Winter」が挙がってくることが多いし、またきらびやかなポップ・メタル・サウンドで一世を風靡したデビュー作のインパクトが忘れられない人も少なくないだろうが、個人的には1st「Night Songs」(1986)を★★、2nd「Long Cold Winter」(1988)を★★☆とすれば3rd「Heartbreak Station」(1990)が★★★★てな具合。 楽曲のクオリティ、サウンドの整合感には3rd以前、以後ではそれくらいの圧倒的な差があると思う。3rd「Heartbreak Station」で成熟した完成度の高いブルーズ・オリエンテッド・ロックを披露し、セールス的にも成功したにも関わらず、相変わらず聞こえてくるのはファンのメタル・サウンドを求める声。一方で時代はNirvana、Pearl Jamに始まるグランジの台頭で、Cinderellaのようなオールド・スクールHRは隅においやられ居場所がなくなりつつあった。トムも方向性について悩んだであろうことは想像に難くない。そして、導き出された答えは土着的ブルーズ・ロックでもヘヴィ・メタル回帰でもなく、本能のままにハードにロックすることだったのだ。言い方は悪いがここには"やけくそ"ともいえる一種異様なパワーを感じる(しかし、前述したようにサウンドの整合感は全アルバム中最強!) 明らかにDeep Purpleに影響を受けたTr.7"Freewheelin"を最初に聴けばこのアルバムの方向性がわかりやすいだろう。あくまでもオーセンティックなハードロックの土台の上で、自分たちならではの個性を紡ぎ上げてゆく・・・この枠の中でならトムの独特のダミ声も活きてこようというものだ! 過去を捨てて時代に擦り寄るのではなく、1st〜3ndアルバムまでの音楽的要素をすべて活かしつつ新しいスタイルを生み出しているのは見事という他はない。「Wayne's World」(1992)のサウンドトラック・アルバムにも収録された"Hot & Bothered"を除く全ての曲でドラムスを担当しているケニー・アロノフも「Long Cold Winter」でのコージー・パウエルとは比較にならないほどCinderellaサウンドにハマっている。そして歌詞に表現されたトムの切ないまでのポジティヴィティ・・・"All Comes Down"  "Still Climbing"  "Through The Rain"  "The Road's Still Long"といった曲は是非日本盤の対訳を見ながら聴いてほしい。トムが自らの母親に捧げた美しいバラード"Hard To Find The Words"はCinderellaを代表する名曲のひとつだろう。聴くほどに新たな発見がある最高傑作だ。  (2/1/2005)
Winger/Pull <165>Winger/Pull
(Japanese CD/1993)

★★★★
  Cinderellaの「Still Climbing」と同じくグランジ/オルタナ全盛時にリリースされた、これも忘れられた傑作アルバム。Wingerというと1stアルバム(1989)、2ndアルバム「In The Heart Of The Young」(1991)でのゴージャスなサウンドとバンド・イメージ。特にビデオ・クリップでの足を蹴り上げ、舞いながらべースを弾き、歌うキップ・ウインガーのあまりに80'sな印象が強烈すぎたこともあって、単なる"時代の仇花"的に軽く扱われることが非常に多いわけだが、実は作曲能力は勿論、演奏能力、ミュージシャンシップとどれをとっても非のつけどころがない、超一流の集団なのである。この「Pull」は、音楽ファンは勿論同業者からも、"悪しきヘア・メタルの代表"としてコケにされ続けた才能達が時代に叩きつけた"意地"の詰まった作品なのだ。先ず、音像が1st、2ndとはがらりと変わっている。プロデューサーが"こってり系の音"を得意とするボー・ヒルからマイク・シプリー(キップが共同プロデュース)に交代した事で、ヴォーカルと各楽器がシャープに分離した、生々しくへヴィなサウンドになったのだ。アルバム全体としてはかなりLPを意識した構成になっている。オープニングの"Blind Revolution Mad"は静かなアコースティック・ギター(知る人ぞ知るキップのアコギ・プレイの妙!)ではじまるへヴィ・ロック。LPでいうA面最後、5曲めの大作"Junkyard Dog(Tearson Stone)"のエンディングはアコギで 静かにフェードアウトし、B面は再びアコースティック・ギターではじまるパワー・バラード"The Lucky One" エンディングの11曲め"Who's The One"はまるっきりアコースティックのバラードである(Wingerの中でも1、2を争う名曲だと思う)   キップの張りのあるエモーショナルなヴォーカルといい、ギター、べース、ドラムスといいどれをとっても全編で強烈に"重さ"を主張しているのだが、ポイントのアコースティック・サウンドが活きているため、バリエーションに富んだメリハリあるアルバムになっているのだ。バンドが新章に入った事を主張する"Blind Revolution Mad"のダークなメロディと、あまりにエモーショナルで熱く響くキップのヴォーカル。地を這うようなドラムス、べースにポップでキャッチーなメロディが被さる名曲"Down Incognito"(間奏のブルーズ・ハープがまたイイ!)   1st、2ndでの音楽性とはまた全く違う、陰りのあるメロディで勝負したバラード"Spell I'm Under"  1st、2ndで影響が顕著だったDef Leppard風のコーラス・アレンジが聞けるが、素材そのものが異なるため、その響き方もまた違って"物真似"ではない新鮮味を生むことに成功している。楽曲の性質上、2ndまでのきらびやかなタッピングを抑えめのレブ・ビーチが思い切り弾きまくる"In My Veins"  この曲はまさに"Wingerならでは"という感じ。エンディング前のキップの捲し立てるようなヴォーカルと、レブのプログレッシヴなギターと、ロッド・モーゲンステインの変拍子。彼らにしたらほんのお遊び程度であろう14秒なのだが、このスリリングな味付けが心地よいのだ。"Junkyard Dog"のメタリックな質感は文句なしに素晴らしいし、どことなく広大な平原をイメージさせるメロディを、キップがハスキーな、しかし伸びやかな声で歌い上げる"The Lucky One"も聴くほどに心に染みてくる。7曲めの"In For The Kill"から10曲めの"Like A Ritual"までがややインパクトに欠けるが、それでも平均点以上の楽曲が揃っているし、ロッドのアフリカンなドラムスをフィーチュアした"Like A Ritual"のようにちょっとした"味付け"が効いているため飽きさせないのだ。前述したように、ラストの"Who's The One"はあまりに美しいテーマとメロディを持った名曲。日本盤ボーナス・トラックとして収録された"Hell To Pay"(ライノ編集のベスト・アルバム「The Very Best Of Winger」にも入ってる)では、彼らを馬鹿にしたMetallicaへの回答を表した(間奏ではMetallicaのブラック・アルバムの曲名を羅列)わけだが、アルバムが売れなかったため結局その声も世間へは届かず・・・。でも、12年経った今、小さな島国の片隅で私は控えめに叫びます。「『Pull』は最高のハード・ロックアルバムだ!」  (2/5/2005)
Def Leppard/Slang <164>Def Leppard/Slang
(CD/1996)

★★★☆
  これまた90年代半ばのグランジ・オルタナティヴ流行の余波で大幅に変化したサウンドが論議を呼んだ一枚。確かに、それまでのDef Leppardからは想像もつかないダークなメロディはファンから拒絶されても止む無しといった感があるが、この「Slang」はDef Leppardの歴史において非常に重要なアルバムだ。傑作というつもりはないし、むしろ"変わろう"という意識が先行しすぎた故の詰めの甘さも随所で目立つのだが、ここで彼らが得た経験はある意味CDのセールスよりずっと大きかったと思う。「Adrenalize」(1991)までのDef Leppardは曲調さえ違えど、楽曲の盛り上げの手法とツールが画一的だった(勿論"Rocket"のような例外もあったが) Queenをお手本にしたビッグなコーラス・ハーモニー、内容よりは"インパクト"を重視の歌詞(サビ)、そしてギターソロ。「Slang」で初めて彼らはパターンに拘らない楽曲をつくることが出来たのだ。一曲ごとに異なる楽曲のストラクチャーと、素材を最大限に光らせる柔軟なアレンジ。こんな裏技持ってたのかよ! 決して器用とはいえないジョー・エリオットのヴォーカルも驚くほど多彩な表情をみせ、様々な内容の歌詞(ブックレットに歌詞が載っていたのには驚いた)を歌い上げている。決まったパターンから外れても、自分たちらしさは表現できる・・・「Slang」で得たスキルは、後の「Euphoria」(1999)、「X」(2001)に於いても十分活かされている。  (2/12/2005)
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